イヤイヤ期に子どもが怒ると物を投げるのはなぜ?
「気に入らないことがあると、手近にあるおもちゃを全力で投げつける」
「ご飯をひっくり返し、スプーンを飛ばす」
1歳、2歳、3歳頃のイヤイヤ期真っ盛りの時期、お子さんの「物を投げる」という行動に頭を悩ませているパパ・ママは少なくありません。危ないし、片付けも大変だし、何より「どうしてこんなに乱暴なの?」と悲しい気持ちになってしまいますよね。
しかし、結論からお伝えすると、イヤイヤ期の「物を投げる」行動は、決してわがままや攻撃性の表れではありません。それは、まだ発達途中の脳が一生懸命に自分の感情を処理しようとしている、成長のプロセスの一つなのです。
この記事では、児童心理学と発達心理学の視点から、子どもが怒ったときに物を投げる「本当の理由」を解き明かし、親御さんの心が少しでも軽くなるような向き合い方のヒントをお届けします。
1. 怒ると物を投げる行動の「3つの根本原因」
子どもが物を投げるのは、性格が激しいからでも、育て方が間違っているからでもありません。主に以下の3つの発達的な背景が絡み合っています。
① 言語能力が感情のスピードに追いついていない
イヤイヤ期の子どもは、心の中に「悔しい」「もっとやりたい」「悲しい」といった複雑な感情を抱えています。しかし、それを「言葉」で表現する力はまだ未熟です。
あふれ出した激しい感情をどうにかして外に出そうとした結果、言葉の代わりとして「物を投げる」という物理的な手段が選ばれてしまうのです。これは、ある種のコミュニケーションの形とも言えます。
② 脳の「ブレーキ」がまだ工事中
人間が感情をコントロールする司令塔は、脳の「前頭前野」という部分にあります。このブレーキ役の機能は、乳幼児期にはまだ十分に発達していません。
「投げたら危ない」と頭では分かっていても、怒りの衝動が湧き上がった瞬間にブレーキが間に合わず、手が動いてしまう。これが、イヤイヤ期の行動の正体です。この脳の仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
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③ 原因と結果(因果関係)を学習している
物を投げると「大きな音がする」「親が驚いた顔をする」といった反応が返ってきます。子どもにとっては、自分の行動が環境に変化を与えたという「手応え」になります。
怒っているときだけでなく、実は自分の影響力を確かめるために投げている側面もあるのです。
2. 【年齢別】物を投げる行動の特徴と心理
一口に「投げる」と言っても、年齢によってその背景にある心理は少しずつ異なります。わが子の発達段階に合わせて捉えてみましょう。
【1歳〜1歳半頃】好奇心と反射
この時期は「投げると飛んでいく」という物理現象そのものへの興味が強い時期です。怒って投げるというよりは、衝動のコントロールが全くきかない状態で手が動いてしまうことが多いのが特徴です。
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【1歳】自分でやりたがる・手伝うと怒る理由|発達段階との関連/
【2歳〜2歳半頃】激しい自己主張の表れ
いわゆる「第一反抗期」のピークです。「自分でやりたかったのにできなかった」という挫折感や、「パパ・ママに僕(私)の気持ちに気づいてほしい!」という強いメッセージが、物を投げるという激しい行動に繋がります。
【3歳以降】目的を持ったデモンストレーション
3歳頃になると、相手の反応をより予測して動くようになります。自分の要求を通すための「交渉材料」として物を投げたり、あえて親が困ることをして注目を引こうとしたりする戦略的な一面も見えてきます。
3. なぜ「ダメ!」と叱っても効果がないの?
「投げちゃダメ!」と何度も言い聞かせているのに、ちっとも改善されない。そんな毎日に疲れ果ててしまうこともあるでしょう。なぜ、親の言葉が届かないのでしょうか。
「長い説明」が脳に届いていない
感情が爆発しているときの子どもの脳は、一種のパニック状態です。そこで「どうしてそんなことするの?」「おもちゃが痛いって言ってるよ」と長く説得しても、処理能力を超えてしまい、耳を通り抜けてしまいます。
「注目」が行動を強化してしまうことも
投げたときにパパやママが「コラ!」と大きな声で反応すると、子どもは「投げれば親が自分をしっかり見てくれる(反応してくれる)」と学習してしまうことがあります。これを専門用語で「誤った学習」と呼びます。
そもそも「やめ方」がわからない
「ダメ」は「禁止」の言葉ですが、「代わりに何をすればいいか」は教えてくれません。ブレーキのない車に「止まれ」と言うようなもので、子どもはどうやってそのエネルギーを逃せばいいのか分からず、また投げてしまうのです。
このような切り替えの難しさにお悩みの方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
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切り替えができない行動は発達の問題?|イヤイヤ期によくある理由と対応/
4. 物を投げる行動が激しくなりやすい子の特徴
同じイヤイヤ期でも、物を投げる子がいたり、ただ泣くだけの子がいたりと、個人差があります。行動が激しく出やすい子には、以下のような特性が隠れている場合があります。
- 活発でエネルギーが有り余っている: 体を動かすことが大好きな子は、感情の表し方もダイナミックになりがちです。
- 感受性が強く、刺激に敏感: 周囲の音や光、あるいは自分の不快感に敏感な子は、ストレスが溜まりやすく、爆発しやすくなります。
- 眠気や空腹に左右されやすい: 生理的な欲求が満たされていないと、脳のコントロール力が極端に低下します。
もし「うちの子、他の子より激しすぎるかも?」と感じたら、それは育て方ではなく「生まれ持った気質」が関係しているかもしれません。
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活発すぎる子のイヤイヤが激しく見える理由|多動との違いを整理/
5. 物が飛んできた瞬間の「正しい3ステップ対応」
子どもが怒りに任せて物を投げたとき、親として最も大切なのは「冷静に、かつ短く」対応することです。感情的に怒鳴り合うのではなく、以下のステップを意識してみましょう。
ステップ1:まずは「安全」を確保し、行動を物理的に止める
物が当たりそうな場所にいるなら身をかわし、可能であれば子どもの手を優しく、でもしっかりと抑えます。「投げないよ」と一言だけ伝え、それ以上投げられない状況を物理的に作ります。このとき、怖がらせるような表情ではなく、「真剣な無表情」で対応するのがコツです。
ステップ2:子どもの「気持ち」を短い言葉で代弁する
「投げたかったんだね」ではなく、「悔しかったね」「もっと遊びたかったんだね」と、投げた行動ではなく「投げたくなった理由」を言葉にしてあげます。気持ちを分かってもらえたと感じることで、子どもは「投げてアピールする必要」がなくなっていきます。
ステップ3:投げても良い「代わりのもの」を提案する
「投げちゃダメ」で終わらせず、「投げるなら、この柔らかいボール(またはクッション)をあっちに投げて」と、エネルギーを逃がす先を教えます。これを繰り返すことで、徐々に「投げてはいけないもの」の区別がつくようになります。
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6. 繰り返す「投げる行動」を減らしていく日常の工夫
その場の対応だけでなく、日頃の環境を整えることで、投げる回数そのものを減らすことが可能です。
「投げるのが楽しいおもちゃ」をあえて用意する
投げるという動作自体は、腕や肩の発達に必要な運動でもあります。布製のボール、紙を丸めたもの、お手玉など、「これは投げていいよ」という専用のおもちゃを用意し、思い切り遊ばせる時間を設けることで、ストレス発動時の投擲を抑制しやすくなります。
感情を「言葉」にするトレーニング
「怒る=物を投げる」という回路を、「怒る=言葉や身振りで伝える」に書き換えていきます。親が日頃から「ママ、今ちょっと悲しいな」「パパ、お仕事疲れたよ」と、自分の感情を言葉にしている姿を見せることも、子どもにとって大きな学びになります。
事前予告で「爆発」を未然に防ぐ
「そろそろおしまい」を突然告げると、子どもはパニックになり物を投げます。「あと3回やったら終わりね」と見通しを立ててあげるだけで、感情の爆発を回避できる場面は驚くほど増えます。
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7. 親が限界を感じたとき、知っておいてほしいこと
物が飛んできたり、せっかく作ったご飯を投げられたりすれば、どんなに優しい親でもイライラするのは当然です。自分の育て方を責めたり、子どもを「乱暴だ」と決めつけたりする必要はありません。
保護者のためのセルフチェックリスト:
- [ ] 「危ない!」と叫ぶ前に、一度深呼吸する余裕があるか?
- [ ] 子どもが投げた物を、わざと本人の前で拾い続けていないか?(拾う行為を遊びと勘違いさせないため)
- [ ] 親自身が睡眠不足や空腹で、心に余裕がなくなっていないか?
もし、毎日イライラが止まらず、自分をコントロールできないと感じるなら、それはあなたが「頑張りすぎている」サインかもしれません。
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専門家の視点|精神科医が解説するイヤイヤ期の考え方
精神科医としての視点で見ると、物を投げるという行動は「自己の表出」であり、非常に力強い成長のエネルギーが宿っています。大切なのは、その行動を「善悪」だけで裁かないことです。乳幼児期の脳は、衝動を抑える力が未熟なのが当たり前。投げる行動はいずれ、言葉の獲得とともに必ず落ち着いていきます。もし「他の子を傷つける」「あまりに回数が多い」と不安な場合は、その行動そのものよりも、その背景にある「不安」や「感覚の過敏さ」がないかを、一度保健センターや小児科で相談してみるのも、親の安心材料に繋がります。
育児に取り組むパパ・ママへ
目の前で物を投げられ、心が折れそうな日々を過ごしているあなた。そんな中でも「なぜ投げるの?」と理由を知ろうとしていること自体が、最高に愛情深い親である証です。
全部を完璧に受け止めようとしなくて大丈夫。投げられた物が壊れても、あなたの親としての価値は一ミリも壊れません。今日は少しだけ自分を甘やかして、ゆっくり休んでくださいね。
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